理科の授業向け

遺伝的浮動とハーディー・ワインベルグの法則のシミュレーター

2色のコインのモデル実験と同じ操作を、複数の集団で何百世代もくり返します。集団の大きさを変えると、遺伝子頻度のゆれ方(遺伝的浮動)や、固定・消失までの世代数がどう変わるかがわかります。モードを切り替えると、自由な交配で遺伝子型頻度が p²:2pq:q² になること(ハーディー・ワインベルグの法則)も確かめられます。

🔬 生物 遺伝子の変化と進化の仕組み(遺伝的浮動・自然選択)
Aが固定した集団
—
Aが消失した集団
—
最後の世代の p の平均
—
Aがいずれ固定する確率(理論)
—

遺伝的浮動:線1本が1つの集団のAの頻度 p(点線=最初の頻度、●=固定または消失した世代、オレンジの帯=びん首)。グラフをタップすると、その世代の時点での集団の数を表示します。ハーディー・ワインベルグ:左=親の遺伝子プールと、配偶子を2つずつ組み合わせてできた子(赤=A、青=a)、右=遺伝子型頻度(灰色=親、色=子、点線=理論 p²・2pq・q²)と、世代ごとの p。「乱数」を固定すると、同じ条件では同じ結果になります。

このシミュレーションでわかること

集団の遺伝子頻度は、自然選択がはたらかなくても、配偶子が次の世代に受けつがれるときの偶然によって変化します(遺伝的浮動)。集団が小さいほど1世代あたりの変化が大きく、ある対立遺伝子が固定(頻度1)したり消失(頻度0)したりするまでの世代が短くなります。一方、十分に大きな集団で自由な交配が行われ、突然変異・移入や移出・自然選択がなければ、遺伝子頻度も遺伝子型頻度 p²:2pq:q² も世代を重ねても変わりません(ハーディー・ワインベルグの法則)。

対応する単元:高等学校「生物」(1)生物の進化 ア(イ)遺伝子の変化と進化の仕組み「㋒進化の仕組み」。学習指導要領解説では、遺伝子頻度が変化する要因として遺伝的浮動と自然選択を扱うとし、2色のコインを一対の遺伝子に見立てたモデル実験(親の世代のコインを比率を保ったまま数倍に増やし、そこから同じ数を無作為に選んで子の世代とする操作を繰り返す)が例示されています。このシミュレーターは、その操作をコンピュータで何百世代もくり返すものです。

授業での使い方

導入:コインのモデル実験とつなぐ

班ごとに2色のコイン(各10枚=N=10個体分の遺伝子20個)でモデル実験を数世代行い、結果をグラフにします。次にこのシミュレーターを N=10 にして「▶ 実行」を押し、同じ操作を100世代分くり返すと、班ごとにちがう結果になり、やがてどちらかの色に固定されることを確かめます。

展開:集団の大きさを変えて仮説を確かめる

「集団が大きいと、遺伝子頻度の変化はどうなるか」と仮説を立てさせ、N=10・100・1000 で比べます。「乱数」を「固定 No.1」にすると、同じ条件では何度押しても同じ結果になるので、電子黒板とタブレットで同じグラフを見ながら話し合えます。「びん首効果」をありにすると、途中の5世代だけ個体数が減ったときに遺伝子頻度が大きくずれ、その後も戻らないようすが見られます。「選択の強さ」を0.05などにすると、Aの頻度が全体として上がる(自然選択)一方で、小さい集団では有利なAでも偶然消失することがあるとわかります。

まとめ:ハーディー・ワインベルグの法則

「モード」を「ハーディー・ワインベルグ」にし、「親の世代」を「AAとaaだけ」にして「▶ 次の世代をつくる」を押します。ヘテロ接合体のいない親の集団からでも、1世代の自由な交配で子の遺伝子型頻度が p²:2pq:q² になり、その後は世代を重ねても変わらないことを確かめます。集団を小さくすると、理論の値からずれやすくなることも確認します。

生徒への問いの例

  1. 選択がはたらいていない(s=0)のに、Aの頻度が1や0になる集団があるのはなぜだろう?
  2. N=10 と N=1000 では、固定や消失が起こるまでの世代数はどうちがうだろう?絶滅危惧種のような小さな集団にとって、これは何を意味するだろう?
  3. ある集団で潜性の形質を示す個体が16%いた。顕性の形質を示す個体のうち、ヘテロ接合体(Aa)は何%だろう?

しくみ・解説

用語

ハーディー・ワインベルグの法則の式

Aの頻度を p、aの頻度を q(p+q=1)とすると、配偶子の組み合わせ(下の表)から、次の世代の遺伝子型頻度は

(pA+qa)² = p² AA + 2pq Aa + q² aa

卵\精子A(p)a(q)
A(p)AA(p²)Aa(pq)
a(q)Aa(pq)aa(q²)

次の世代のAの頻度は p²+pq=p(p+q)=p で、もとと変わりません。親の遺伝子型の割合がどうであっても、遺伝子頻度が p・q なら、1世代の自由な交配で遺伝子型頻度は p²:2pq:q² になります。

早見表:遺伝子頻度と遺伝子型頻度

p(Aの頻度)q(aの頻度)AA(p²)Aa(2pq)aa(q²)
0.90.10.810.180.01
0.80.20.640.320.04
0.70.30.490.420.09
0.60.40.360.480.16
0.50.50.250.500.25
0.990.010.98010.01980.0001

計算問題の例

  1. 潜性ホモ接合体の割合から q を求める:潜性の形質(aa)を示す個体が16%のとき、q²=0.16 より q=0.4、p=1−0.4=0.6。AA=0.6²=0.36(36%)、Aa=2×0.6×0.4=0.48(48%)。顕性の形質を示す個体(84%)のうち Aa は 0.48÷0.84=約57%です。
  2. まれな潜性の形質:aa が1万人に1人(q²=0.0001)のとき、q=0.01、p=0.99。ヘテロ接合体は 2pq=2×0.99×0.01=0.0198、約50人に1人です。形質として現れる人の約200倍の人が、潜性の遺伝子をもっていることになります。
  3. 個体数から遺伝子頻度を求める:1000個体の集団で AA 360、Aa 480、aa 160 のとき、Aの数は 2×360+480=1200(全体 2×1000=2000)なので p=0.6、q=0.4。p²:2pq:q²=0.36:0.48:0.16 となり、この集団はハーディー・ワインベルグ平衡にあるといえます。

遺伝的浮動の大きさの目安

このシミュレーターでは、N 個体の集団がもつ 2N 個の遺伝子を、親の世代の遺伝子プールから無作為に選び直して次の世代とします(ライト・フィッシャーのモデル)。1世代あたりの遺伝子頻度のゆれ(標準偏差)は √(pq/2N)、p=0.5 から固定か消失が起こるまでの平均の世代数は約 4N×ln2 ≒ 2.8N 世代です。ヘテロ接合体の割合は、1世代ごとに平均して (1−1/2N) 倍に減っていきます。

N(個体数)遺伝子の数 2N1世代のゆれ(p=0.5)固定・消失までの平均(目安)50世代後のヘテロ接合体(最初を1)
10200.112約28世代0.08
20400.079約55世代0.28
501000.050約140世代0.61
1002000.035約280世代0.78
100020000.011約2,800世代0.98

中立な(有利でも不利でもない)対立遺伝子が最終的に固定する確率は、そのときの頻度 p と同じです。Aが有利なとき(このシミュレーターの「選択の強さ s」)の固定する確率の近似式は (1−e−4Nsp)/(1−e−4Ns) で、たとえば N=20、s=0.05、p=0.1 では約34%です。有利な遺伝子でも、小さい集団では偶然に消失することがあります。木村資生が提唱した中立説では、分子レベルの変化の多くは自然選択に有利でも不利でもなく、遺伝的浮動によって集団に広まると考えます。

ポイント:世代は重ならず、各世代の個体数は一定(びん首の5世代だけ減る)としています。自然選択は、Aの遺伝子が選ばれる確率を (1+s) 倍に重みづけて表しています(解説のモデル実験で「一方の色がより多く選択されるような条件」にあたります)。突然変異・移入・移出は考えていません。乱数を「固定」にすると、同じ条件では同じ結果が再現されます。

参考

引用・転載について

本ページのシミュレーション結果・数値は、出典を明記いただければブログ・ニュース記事・SNS・授業や社内資料への引用を歓迎します。事前連絡は不要です。

推奨クレジット表記:出典:シミュラボ「遺伝的浮動とハーディー・ワインベルグの法則のシミュレーター」 https://shimulabo.com/sims/iden-fudou/

よくある質問

遺伝的浮動と自然選択のちがいは?
自然選択は、生存や繁殖に有利な遺伝子の頻度が高まるという方向性のある変化です。遺伝的浮動は、どの配偶子が次の世代に残るかが偶然で決まることによる方向性のない変化で、有利・不利と関係なく起こります。集団が小さいほど遺伝的浮動の影響が大きくなります。
ハーディー・ワインベルグの法則が成り立つ条件は?
①集団が十分に大きい(遺伝的浮動が無視できる)、②自由に交配が行われる、③突然変異が起こらない、④ほかの集団との間で移入や移出がない、⑤自然選択がはたらかない、の5つです。この条件では遺伝子頻度が世代を経ても変化せず、遺伝子型頻度は p²:2pq:q² に保たれます。
潜性ホモ接合体の割合から遺伝子頻度を求めるには?
潜性の形質を示す個体(aa)の割合が q² なので、その平方根が q です。たとえば aa が16%なら q=√0.16=0.4、p=1−q=0.6 で、ヘテロ接合体は 2pq=0.48(48%)です。
なぜ小さい集団ほど遺伝子頻度が固定・消失しやすいの?
次の世代に受けつがれる遺伝子の数(2N個)が少ないと、偶然のかたよりが割合として大きくなるからです。1世代のゆれの大きさは √(pq/2N) で、p=0.5 のとき N=10 では約0.11、N=1000 では約0.011 です。固定か消失までの平均の世代数はおよそ 2.8N 世代です。
びん首効果とは?
病気や災害などで集団の大きさが一時的に極端に小さくなると、そのとき生き残った少数の個体の遺伝子頻度が偶然に大きくかたより、その後に集団が大きくなっても遺伝的多様性が失われたままになる現象です。チーターやキタゾウアザラシの遺伝的多様性が低いのは、その例と考えられています。
「優性・劣性」と「顕性・潜性」は同じ意味?
同じ意味です。「優性・劣性」は形質が優れている・劣っているという誤解を生みやすいため、日本遺伝学会が2017年に「顕性・潜性」への言いかえを提案し、今の高校の教科書でも「顕性・潜性」が使われています。

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